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戦後の日本は独立国家であったのか


 今年(2021年)で日本は戦後76年経過しました。最近の日本周辺の極東アジアの情勢は、けして平和とは言えない状況になり始めているように、私は感じています。今年の10月には、任期満了に伴う衆議院総選挙が行われますが、与党自民党ではその前に総裁選挙を行っており、そこでは舌戦が繰り広げられています。

 日本国内では、安倍政権の時から「憲法改正」に対する議論が始められていますが、その議論のトピックとして「自衛隊の憲法明記」が掲げられているのは、多くの人が知っている事と思います。


 今回、総裁選に名乗りを上げている高市早苗元総務相は、この改憲論議の中心にいる一人であり、安倍元総理のあとを継ぐことを言っていますが、高市女史は最近の極東アジアの情勢を鑑みてか、防衛費(事実上の国防費)の増額等を掲げ、国民や国家、そして領土を守り抜く事を述べていて、国民の中にも、この高市女史の決意に賛辞と期待を寄せる声が多く見受けられています。


 私自身、国際的な平和の実現というのを希求している一人ですが、今の人類社会に於いては、未だ国家という単位で人類は成り立っていること、また国家間ではいまだ「殺人行為」でもある「戦争」を容認している現実がると考えています。


 今の日本国憲法ではその前文に「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」とありますが、果たして今の中国や韓国、またロシアやアメリカに対して、彼の国の「公正と信義に信頼して」という事で、日本という国の安全と生存を果たして保持できるのでしょうか。

 そういう事を考えた時、今の日本国憲法とは現実に即していない部分もあると考えていることから、私自身、憲法改正については賛成です。


 しかし一方で、今の日本人社会は果たしてまともな憲法改正の議論が出来るのか、そこについては、とても懐疑的にも考えていて、今の自民党が行っている、底の浅い憲法改正の動きには警戒感すら感じているのです。憲法とは国の基本的な理念を掲げる法であり、今の日本人社会で、果たしてしっかりと議論をし、憲法を制定できるのでしょうか。


 私はこの憲法改正を考える前に考えるべき事があると思うのです。それは太平洋戦争以降の日本国とは、本当の意味で独立国家足り得ていたのか。という事を日本人としてしっかりと考える必要があるという事です。


 独立国家の定義について、実は明確に定義は為されていないと言われていますが、通常、国際社会の中では以下の要件を備えたものと言われています。


 ①永久的住民

 ②明確な領域

 ③政府の存在

 ④他国との関係を取り結ぶ能力


 今の日本では永住的な住民もいますので、①の要件は満たしています。また竹島や北方領土等、一部の地域については周辺国と揉めている部分もありますが、四方が海であり、かつ領海が定められているので②の要件も満たしています。

 しかし➂について、政府は確かに存在していますが、その政府の持つ資質として「独立国の政府」足りえるのか、そこについては疑念を持っていますし、④の他国との関係を取り結ぶ能力についても、脆弱な能力と不確かな国際感覚しか持ち合わせていないという事を感じているのです。


◆政府の資質

 政府とは行政機関を動かす官僚組織と、その官僚組織を統理する政治家によって構成されていると私は考えています。(これは私の勝手な解釈に基づいていますが)日本の官僚組織とは、その淵源をたどると江戸時代まで遡ると言われています。

 徳川治世三百年を治めた幕府はしっかりとした官僚組織を持っていました。明治維新ではその幕府に代わり、天皇親政の明治政府が国を取り仕切る事となりましたが、そこでは官僚組織の組み換えを行ったとは言え、基本的に明治政府とは幕府の官僚機能を継承して出来た政府です。そしてこの官僚組織は第二次世界大戦を経ても、基本的にその形態が継承されて現代に至っています。


 つまり日本では官僚構造に大きな変革はなく、官僚組織は幕末から現在まで続いている組織体と言ってもよく、その官僚組織を動かす頭(政治家など)のすげ替えにより、今まで来た国であると言っても良いでしょう。


 では今の日本では、この官僚組織を政治家が統理出来ているのか。この事について、過去に民主党政権時代、総理大臣を経験した鳩山友紀夫氏は、「週プレNEWS(2014年12月15日)」で興味深い発言をしていますので、紹介します。


「(沖縄基地の県外移設について)当時、自分がもっと政治の裏側にある仕組みを深く理解していれば、結果が違っていた部分もあるのかなとは思いました。<中略>本来ならば協力してくれるはずの官僚の皆さんには、自分の提案を「米軍側との協議の結果」と言って、すべてはね返されてしまって。分厚い壁の存在は感じながらも「やっぱりアメリカはキツイんだなぁ」ぐらいにしか思っていなかった。その裏側、深淵の部分まで自分の考えは届いていなかったのです。」


 確かに当時の鳩山総理は、沖縄県に対して米軍基地の県外移設を提唱したのですが、結果として不調に終わり、それが仇となり結果、首相退陣にまで追い込まれていたのは、記憶に新しい事です。しかしそこには「政治の裏側にある仕組み」があった事を、初めて知ったと述べています。


現在の日本の仕組み

 日本というのは太平洋戦争後、皆さんもご存知のように「戦争放棄」を憲法に定め、武装を一切しない国家であると宣言しました。しかし太平洋戦争後間もなく、国際社会は「資本主義 対 共産主義」という対立構造、いわゆる「冷戦時代」に突入したのです。


 極東アジアにおいては、ソビエト連邦軍の将校であった人物が、後に「金日成」と呼ばれ、彼はソ連を後ろ盾にして朝鮮戦争を起こし、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の独立を宣言しました。また中国においても長年に渡る内戦の結果、蒋介石が率いる中華民国は台湾に追いやられ、中国全土は毛沢東が率いる中国共産党が抑え込み、ここに中華人民共和国の設立を宣言しました。要は極東アジアに共産主義の流入が懸念される情勢でもあったのです。


 そんな中で軍事的にも丸裸な状況であった日本ですが、そこの守りをアメリカ軍が担当するという様な「日米安全保障条約」が、岸信介(当時)首相の時に締結されたのは、歴史を少しでも勉強した人であれば存知の事だと思います。簡単に言えば、日本は憲法で武力放棄をしたのだから、アメリカ軍に守ってもらおう、その為に日本は出来る限り協力するよ、という様な条約です。そしてこの日米安保条約を運用するために、「日米合同委員会」という組織も設置されました。


 日米合同委員会 組織図 (外務省HP)


 組織図についてリンクを貼りましたが、これを見てもらうと日本側は外務省北米局長、アメリカ側はアメリカ太平洋軍副司令官が代表となり、日本の各省のトップと米軍の密な連携体制になっているのが理解できると思います。鳩山氏が「政治の裏側にある仕組み」と言いますが、日本の官僚機構は現在、アメリカ太平洋軍と緊密な連携により動いている事が、この事からも理解できると思います。


◆首都圏上空の制空権

 今の日本人は「戦争放棄」という憲法の影響もあってでしょうか、軍事的な側面について極めて無関心な社会となっています。ただ理解しておく必要がある事として「横田空域」という事についてここで紹介をしていきます。



 この横田空域とは、日本の首都圏上空をアメリカ空軍の横田基地が管制権を持つ空域の事ですが、その範囲は上にある図で示す様に東京から関東平野の西半分に及ぶ広大な空域となっています。

 いま羽田空港を離発着する民間機の多くは、この首都圏上空を飛行する際に、アメリカ空軍の横田基地の管制官の指示によって飛行をしています。世界には多くの国がありますが、自国の首都圏の上空を、他国の軍が管制権を持っていると言うのは、恐らく日本国だけではないでしょうか。


 この横田空域について「指示はアメリカ軍に受けるとはいっても、日本の領空である事には変わりないし、自由に飛行できているから問題ない」という様な発言を、以前に私は聞いた事があります。確かに平時の場合ではそうでしょう。しかし一旦有事となった場合(この場合の有事とは、アメリカにとっての有事であり、日本の有事の事ではありません)

東京首都上空の制空権はアメリカ空軍が握るのであって、けして日本政府が握るものではないのです。まずはこの現実について理解する必要があります。詰まるところ、日本政府は首都上空の制空権を持っていないのです。


 これで「独立国家」と言っても良いのでしょうか。


◆日露関係に見える日本の姿

 2016年12月にロシア連邦のプーチン大統領が、山口県長門で安倍総理と会談した事がありました。日本とロシアの間では、長年にわたり北方領土問題があり、この解決なしに両国の平和条約の締結は困難な状況となっています。

 訪日したプーチン大統領は、安倍総理に対して「北方領土を返還しても、そこにアメリカ軍の基地を作らないと日本政府が約束できるのなら、北方領土の返還交渉に応じる」という提案があったそうですが、安倍総理はそれを受け入れませんでした。この背景には様々な理由があると思いますが、やはり日米安保条約という事もあるのでしょう。


 この事もあって、谷内正太郎・元国家安全保障局長の証言として、日本とロシアの間にある課題として、以下の事を挙げています。


「平和条約締結の条件として、日本が第二次大戦の結果、南クリル(北方領土のロシア側の呼称)が正式にロシア領になったと認め、かつ、島に在日米軍基地を展開させないという日本側の保障が不可欠とするもの。」


 ロシア連邦と平和条約の締結が、今の日本にとって、どれほどの国益になるか判りませんが、このような日本政府の姿勢の背景に、日米安全保障条約があり、それが足かせになっているという現実も、日本人は認識する必要があるのではないでしょうか。


◆まとめ

 日本は太平洋戦争に敗戦し軍備を放棄しました。そして軍備を放棄する事で、戦後七十年以上に渡り、経済発展のみに注力する事が出来て、今の様な発展した国になる事が出来たのは間違いない事です。

 しかし一方で、国家の軍事に関する部分の多くをアメリカに依存している事から、実は日本は独立国の体裁こそ保っていますが、独自の外交を行う事が出来なくなっているという事もあるのです。これにより、例えば沖縄辺野古の問題の様に、独立国であれば自国内で解決できる事も解決できない状況が起きていると私は考えています。


 過去において、よく政治家の中には「憲法改正・自衛隊明記」を語らい、それを以って日本を守ろうと言う様な勇ましい言葉を使う人達が居ました。しかしこの日本の現在の姿について、まずは日本国民がしっかりと認識し理解しない限り、日本が独立国としての権利を行使する事は難しいのではないでしょうか。

 また政治家も「憲法改正・自衛隊明記」を単なるパフォーマンスとしてではなく、現実的に進める事を考えているのであれば、こういった日本の今の状況について、国民にしっかりと性格に語る姿勢が必要に思えてなりません。


 日本の政治家や国民も、そろそろこういった現実を理解する時代に入っているのではありませんか?


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